―― 春の風は一色なのに 花はそれぞれの色に咲く ――
暖かくなりましたね。ようやく春を迎えました。
花粉症の私にとっては花粉を運ぶ暖かい春の風は勘弁願いたいところですが、まもなく色とりどりの花が咲くのは楽しみです。
るしあんでは野菜と一緒にチューリップなどの春の花を植えましたので、まもなくカフェも華やぐことと思います。
冒頭の詩は、書家篠田桃紅(とうこう)さん作で、漢詩を引用した禅句集に載っています。
桃紅さんといえば「なかなかお迎えが来てくれないの」とお茶目に話されていたのが印象的でした。
105歳の時にエッセイ『一〇五歳、死ねないのも困るのよ』(幻冬舎)を発刊、その後も2冊を出しているのですから、老いてなお聡明なお姿に感動しました。
残念ながら、2年前の春弥生に107歳の天寿を全うされました。
映画好きの人には篠田正浩監督の従姉と紹介すべきでしょうか。
美術家であり、版画家、エッセイストでもありました。

桃紅さんが育った家の本棚には、洋の東西を問わず多彩な書籍がぎっしり収められていたといいます。
そんな中で、とりわけ影響を受けたのが近代文学だったそうです。
国粋主義の台頭で大正デモクラシーが影を潜めたころでした。
彼女は、体制的な思考を常識とする世の中に対してそれは違うと勇敢に立ち上がり、自分の判断をはっきりと出しました。
書は5歳から、漢学者でもあった父の手ほどきで始めたそうです。
この書を生かし、墨を用いた抽象表現(墨象)という新たな芸術を切り開きました。
1956年、43歳で単身渡米。
ニューヨークの一流ギャラリーの個展で世界的評価を得ることとなるのです。
まさに、多岐に亘る教養と芸術センスで、時代の最先端を行く素敵な女性でした。
そしてまた、健全な批判精神が宿る心眼も持っていました。
彼女は言います、「価値観なんて相対的なもの。客観的な幸福などありません」。
女学校を出たら結婚という世の「常識」にとらわれることがなかったのもそんな心眼故なのかもしれませんね。
また、こんな言葉も残しています。
「自由とは自らに由(よ)(因る、依る)と書く。自分の責任で自分を生かすことだ」。
空襲、疎開、結核と死を意識しながら、封建意識の強い社会を生き延びた、、、彼女の言葉には説得力があります。
多彩なのは春の花に限るものではありません。
今を生きる若者も自由で多彩な生き方をしているのです。
“異次元”“倍増”etc.、、、こんな説得力のない言葉を並べてみても若い人達には響きゃしないよ (-。-)
一色でいいから国会から春の風を吹かせられないものか……