2021年03月21日

やっちまいな@


1992年のハロウィンの晩、アメリカ・バトンルージュにおいて日本人留学生が射殺されるという悲劇が起きました。
パーティーのため仮装した留学生は、誤って他人の庭に入ってしまいました。
怪しい奴が侵入してきたと思った住民の男性は銃を構えて警告。
「Freeze!(フリーズ)」

ところが、その呼びかけの意味を理解できなかったかった彼は男性に近づいていってしまいます。
身の危険を感じた男性は発砲し、胸に銃弾を受けた留学生は即死してしまったのです。
裁判では、男性は殺人罪や過剰防衛に問われることなく、「無罪」の判決が出ました。
当時、日本のマスコミで大きく取り扱われ、日本人は皆、無罪判決に疑問を持ったものです。
私には、「銃を持つことは権利だ」と主張する米社会の病理だとしか思えませんでした。

さて、件(くだん)の「Freeze!」ですが、その意味は「動くな!」。

この事件により、日本人の誰もが「止まれ! 動くな!」という意味を知ることとなりました。
今ではスマホやPCが“固まること”をフリーズというので、子どもでもその意味をちゃんと理解できます。
しかし、この事件以前はその意味を知る人は少なかったのです。
私も同世代の御多聞に漏れず「氷れ!」とか「氷らせろ!」くらいにしか理解できませんでした。
まさに日本の英語教育は“受験のため”のものであり、“コミュニケーションのため”のものではなかったのです。
もしかしたら、堅苦しい文法よりスラングを覚えた方が余程、自分の身を守るのに役立つのかもしれません。



例えば、アメリカのレストランで食事をしていると想像してください。
玄関に立つ従業員が突然「Duck!(ダック)」叫びました。
さて、貴方はどうしますか?

「アヒルが店内に迷い込んできたのかなあ、可愛いもんだ!」
あるいは、
「誰か店に入ってくるなり、ペキンダックでも注文したのかなあ!」
なんて、玄関の方をボゥ〜っと眺めていると、貴方は殺されてしまうかもしれません。

「Duck!」とは「伏せろ!」のスラング。
今まさに店内になだれこもうとしている暴漢を見つけた従業員がお客に「伏せろ!」と叫んでくれているのに、意味も分からず椅子に座ったままの貴方は標的となってしまいます。
なかなか文法通り「Lie down!」とは言わないだろうなあ、、、 まあ、よくて「Head down!」か「Down!」くらいか、、、



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さてさて、そんなスラングですが、70年ほど前にもスラングの誤解釈による或る事件が起きました。
この事件によって、イギリスの死刑制度が無くなったとも言われています。
時は1952年11月ロンドン。
ベントレー少年(19才)が友人(16才)と2人で倉庫に忍び込みました。
警察に通報され屋根に逃げたベントレー達に警官は下りてくるように説得します。
その時、ベントレーは銃を構えた友人にこう叫ぶのです。

「Let him have it ! (レット・ヒム・ハヴ・イット!)」

そして、友人は警官に発砲。
射殺してしまったのです。

「Let him have it !」を文法通りに訳せば「それ(銃)を彼(警官)に渡せ!」。
ところが、スラングでは「やっちまいな!」という意味で使われているんです。

裁判の結果は、“教唆した(そそのかした)”とされたベントレーは死刑、発砲した少年は年齢が考慮され死刑を免れました。
そして、事件からわずか2ヶ月半後に絞首刑が執行されてしまったのです。
この結果にイギリス社会は揺れました。
「なんで銃を撃っていないベントレーの方が死刑なのだ?」
「彼は、本当に銃を手渡すように友人を説得したのではないか?」
「我々は、取り返しのつかない“過ち”を犯してしまったのではないだろうか?」

こうして、この事件をきっかけにイギリスでは死刑廃止を求める声が高まっていくのです。
65年には執行停止、そして98年につながっていきます。

98年はイギリスにとっては特別な年となりました。
7月、ベントレー事件から実に46年という途方も無い時間が経っていましたが、やり直し裁判が行われたのです。
結果は『無罪』。

同年、とうとうイギリスにおいて、死刑制度が全廃されたのです。


そして、ベントレーのお墓。
彼の墓碑銘の下に新たな文字が刻み加えられました。

『イギリス司法の犠牲者』




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新型コロナウイルスは、若者から“留学”“インバウンド交流”などなど様々な「活きた外国語」を学ぶ機会を奪ってしまいました。
しかし、情報ネットワークの進歩によって、TV会議やTV電話などが誰でも手軽に利用できる環境が身近にあります。
若い人達には是非、コロナが落ち着くまではスマホやPCをフル活用してコミュニケーション能力を磨いていってほしいと思います。







posted by るしあん at 23:36| Comment(0) | 日記

2021年03月15日

疫病退散A


昨日は江戸で流行った“病除け”の話しを書きましたが、全国にはいろいろな“病除け”の風習があるようです。
医療が発達していなかった古(いにしえ)の人々の風俗風習が垣間見えてとても面白いもんですね。
私の住むこの街にも何か特別な“病除け”の風習はないものかと調べてみましたが、残念ながら見つかりませんでした。
熱心な檀家さんが多かったようで、うちもそうなのですが、お寺さんから頂いてくる元三大師(がんざんだいし)のお札を玄関に貼るというポピュラーなものでした。




さてさて、、、
江戸の『釣船清次』に並ぶのが、京都の『上酒有(じょうざけあり)』。

都では、酒を売り歩く怪しいババアが疫病を広めていると怖れられていました。
妖婆(ようば)が酒を携え訪れた家の住民がことごとく流行り病にかかってしまったそうです。
そこで、住民は一計を案じたのです。
「そうだ。うちにはうめえ酒がいっぺえあると思わせりゃ、酒売ババアは近づくめえ!」

そこで、玄関に紙を貼り出しました。
これが、『上酒有(じょうざけあり)』。

「銘酒は池のごとく有り。謹んで妖婆にお断り申す。」という具合に妖婆に退散願ったそうです。



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『釣船清次』や『上酒有』のような疫病除けの張り紙やお札の話しは、全国各地で見られるそうです。
疫病を家から遠ざけたいという昔の人々の切実な思いの表れなのでしょうね。
貴方のお住まいの地域にもそんな言い伝えは残っていませんか?
歴史や民俗に触れてみるのもきっと面白いですよ!!!



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それにしても、いつになったらコロナワクチンは行き亘るんだろう?
公衆衛生の責任を国民個々に丸投げして、政府のやることといったら後手後手……

もうしばらく、我々庶民は張り紙やお札に縋(すが)らなくっちゃならないのかなあ (T_T)





posted by るしあん at 13:11| Comment(0) | 日記

2021年03月13日

疫病退散@


「ねえ、サラ。今年の春休みは短くてつまんないね!」
「うん。そうだよねえ!」
先日のこと、ふたりっ子の会話を聞いてふと思い出しました。
そういえば、去年は緊急事態宣言下、小学校は2ヶ月近くも休みになったんだっけ。
もう1年かあ。
あの頃は「我慢すればきっと1年後は良くなっている」と信じてたんだけど、、、
神様もなかなか厳しい試練を与えて下さる (T_T)
サラ・ミラの描いた“アマビエ”も店頭に飾られて早1年、効果のほどはいざ知らず、、、。
とはいえ、家族やお客様が罹患しないで済んだのだから、アマビエ様には感謝をしなくちゃいけないなあ。



さてさて、時は江戸。本八丁堀の長屋に「清次」という者が住んでおりました。
この清次、釣り船の船頭を生業としていました。
お客が来ない日は、自ら海に出て、釣った魚を河岸(かし)に売るという毎日。
ある日、沖でキスを釣って、船着き場に戻って仕分けをしていると船の上に突然、大男が現れたそうな。
背丈は1メートル80センチはあろうか、髪も髭も逆立てた風体です。
「見事なキスだな! ひとつワシにくれんか?」
人の良い清次は、きずのないキスを選んで大男に差し出しました。
すると大男はその場でムシャムシャと食い、満足した様子で、
「お前の名は何と申す?」
清次が名前を告げると、大男は、
「お前は正直者だな! 実はワシは疫病神である。
旨いキスのお礼に、玄関に『釣船清次』と紙に書いて貼っておくがいい。
その紙を見れば、お前や親せきの家には近づくまいぞ!」

半信半疑の清次でしたが、長屋の近所で妻が長い事患っている藤八の玄関先に『釣船清次』と貼り出したところ、本当にたちまち病気が快復するではありませんか。
大男が約束した通り、『釣船清次』の家には疫病神が寄り付かなくなったのです。

暫く後、市中に流行(はや)り病が蔓延した際には、『釣船清次』の紙を玄関先に貼った家の者だけは、病気にかからなかったそうです。



変異株の出現におびえる昨今。
孫たちが描いてくれた“アマビエ”の隣に、今度は“釣船清次”と書いてもらおうかなあ!!




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ところで、この話しにはオチがあって、、、
実はこの大男、疫病神でも何でもなく、本当は天下の大泥棒だったそうです。
キスのお礼に清次の家には盗みに入らなかったそうですが、清次は元々貧乏長屋の住人なので、泥棒には無縁だったようで、、、

でもまあ、空き巣被害者にとってみればやっぱり疫病神に違いねえ!!




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(参考:大田南畝『半日閑話』巻三「釣船清次が事」)






posted by るしあん at 19:16| Comment(0) | 日記